風の影(上・下)

これは傑作です

 久々の「お勧め本」カテゴリー。本はコンスタントに読んでいるのだが、何せ夜中に読むか通勤の短い車中でのツギハギ読みが多く、なかなか「読書した!」と感じられることはない。
 そんな中、久々出会った「傑作本」である。風の影  上 (集英社文庫)風の影  下 (集英社文庫)
 作者は「カルロス・ルイス・サフォン」氏。聞いたことない・・・。まあ、「ダヴィンチ・コード」のダン・ブラウンだって知らなかったし(・・・って自分だけかも?)、名前が日本で知れていないことは別にどうでもいい。
 この本を手に取ったのは、好きなスペインが舞台だったこともあるが、何より書評によって読む気にさせられたからだ。朝日新聞に掲載されていた池上冬樹氏の書評では、「小説を読む喜びにあふれている。物語の虜になることの愉しさがここにはある」「本を読むことが"自己の精神と魂を全開"にし、"物を読むことで、もっともっと豊かに生きられる"ことを教えてくれるのである。物語に浸ることの陶酔と幸福がここにある。十七言語、三十七カ国で翻訳出版されたのも当然だろう。正に傑作」などとべた誉め。
 何となく評判がいいのは、店頭のPOPなどで感じていたのだけど、ここまで絶賛されてたらねえ。読まないわけに行かないでしょう。
 さて、読んでみたら、これが実にイイ!
 翻訳ながら文体に格調高さと知性があり、その一方でユーモアに溢れ、イマジネーションを喚起する描写の美しさとあいまって、一気に読んでしまった。特に下巻は先が気になって仕方ないという具合で、久々に読書で相当な夜更かしをしてしまった。
 まあ、ひとくくりに言えば話は「青春小説」であり「ミステリー」にカテゴライズされる。展開は特に終盤にかけてがらりと変わってハリウッド調となり、冷静に考えると、ありがちな展開やムリのある話に思えなくもないのだが、そんなことはどうでもいいほど物語にパワーがある。
 アチラものの小説なりノンフィクションを読んでいて、いつも感じるのはその視点がとてもワールドワイドであること。舞台がスペインであっても、話は近くはヨーロッパから遠くは南米に及び、それだけでもワクワクさせられてしまう。日本の小説は、面白いものや大好きなものは沢山あるのだけど、どうしても内向的で私小説的なものが多くなりがちで、如何せんスケール感に欠けるのが残念だ。特に純文学系にその傾向が大だと思うがどうだろう。まあ、地理的条件や歴史的条件、更に言語的条件を鑑みるに、無いものねだりだとは思うけどね。
 あーまたスペインに行きたくなってしまった!
 通勤電車で読むには勿体無い。状況が許すなら、ひとりでじっくり読むべし!

ついでにがっかり作品も

 ついでに思いついたから記録しておくが、先般読んだ「ワイルド・ソウル」(上・下)/垣根涼介氏作。
 見事ワタシの三大がっかり作品のひとつにランキングされた。(ほかの二つは未定)ワイルド・ソウル〈上〉 (幻冬舎文庫)ワイルド・ソウル〈下〉 (幻冬舎文庫)
 こちらは、大藪春彦賞吉川英治文学新人賞日本推理作家協会賞三賞受賞作、モチーフが日本の過去の大失策である「ブラジル移民」ときたので、飛びついたものだ。ひょっとして、逢坂剛に続く、ワールドワイドミステリーの新星登場か!?と期待した。
 しかし、読んだ結果、「安すぎ」。
 ついでに、「俗っぽすぎ」。
 ディテールや着眼点はいいのだが、とにかく文体が下品で言葉回しにデリカシーが無く、うすっぺらいテレビドラマを見てるような感じがして不愉快だった。趣味の問題かも知らんが、結末も何だか三文小説。残念に尽きます。